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○琉球古典音楽の節歌

 奄美諸島以南の南西諸島の津々浦々で歌われて来た歌が首里士族の手によって編曲され、宮廷音楽として楽譜に残され、それが琉球古典音楽と呼ばれて伝承されています。楽曲を練り上げる過程で、土臭い原歌をとって替え歌に入れ替え、それが本歌となって伝わっているように思われる。節名に地名がついていて、そこからその歌の出自が判断できるもの、歌い出しの歌詞で節名になっているもの、ハヤシで節名になっているもの等、色々あって歌の出自、原歌が判らないのが多いです。詠み人知らずが多いのも琉球古典音楽の一つの特徴です。尚真王代の中央集権は地方文化の集権でもあり、各地で歌われてきた歌が首里士族の手によって節歌として整えられ古典音楽として伝承されるようになりました。「歌と三線の昔始まりや インクネアガリの神の御作」という伝承にこのような時代背景を読むのです。
  慶長の役後、敗戦によって奄美を奪われ重税を課せられ意気消沈し、羽地朝秀の大和風奨励策も加わって男子は古来の三絃楽を放棄し、三絃楽はわずかに女手(遊郭)によって命脈を保っていたのを憂え、三絃古楽を復興したのが湛水親方です。初めて三絃楽に流儀(湛水流)が打ち立てられた。羽地仕置の影響もあって大和芸能、和文学が盛んになり、古今調の作詞が目立ってきます。その頃からは詠み人が知られるようになってくるが、琉歌は本来読む歌ではなく、謡う歌です。沖縄は伝統的に歌掛けが盛で、そこから生まれて謡いはやされたものは詠み人不明です。琉球古典音楽に詠み人知らずが多いのはむしろ誇るべきことだと思います。

 琉球古典音楽の節歌を出自の観点から概観すると、奄美から沖縄にかけて琉歌(八八八六の韻)が定着したのが目立ちます。両先島(宮古、八重山)の歌は不定形詞が目立ちます。八重山は五四の韻が多いです。そして琉歌百控によると、奄美、沖縄の歌が古節に分類されたのに対して、先島の歌はその殆んどが端節に分類されています。羽地朝秀による大和芸能の奨励は、やがて和琉折衷の仲風型を流行らし、さらに口説を生むが、屋嘉比による遥曲の技法の導入は当流を生み出して一世を風靡し、琉球古典音楽の主流は古来の湛水流に代って当流となりました。琉球王府に受け継がれてきた節歌は「欽定工工四」として残されたが、これらの節歌は、大方端節と称され、本調子ものを纏めて上巻に収めてあります。中巻に収められた節は楽理に基づいて新たに作曲された楽曲が中心です。中巻に収められている節のうち、すき節、伊集早作田節、清屋節の三節を除いて、他は欽定工工四の中巻に収められた節で配列順序も欽定工工四のとおりです。作田節から暁節までを「昔節、あるいは前の五節」と呼び、茶屋節から十七八節までを「大昔節あるいは後の五節」と呼び、これらが中巻節の中心をなしています。中巻に収められた節は先の三節を除いてすべて大節(ウフブシ)です。

 下巻は二揚げ節を中心に編集されています。二揚節は本調子より五度音程を上げて作曲されているので、激情ほとばしる歌が多いです。続巻(拾遺)は上・中・下・三巻の編集から漏れた端節(八重山の歌がめだつ)が集められています。

 冨原守清「琉球音楽考」の言葉を借りていえば、琉球声楽は内容的楽曲と形式化された楽曲の二種に分類することができます。内容的楽曲は曲の内容に含められた歌詞や文句を味わうのが主で、劇的要素を含み内容を離れては成立しません。形式化された楽曲は内容に含められた歌詞や文句を殆んど念頭におかないです。内容とは殆んど関係なしに曲節の形式そのものを味わいます。中巻に収められた大節はすべて形式化された楽曲ということになります。上・下・続巻(拾遺)に収められた節は内容的楽曲で従って歌われる歌詞の意味内容を味わい、中巻の大節は曲の形式を鑑賞するようになっています。とはいっても、古典音楽の節歌は大昔節の例外を除いて殆んどすべての曲にいくつもの替え歌が付けられて歌われ鑑賞されています。曲想そのものにも喜怒哀楽はあるわけだから、曲想を抜きにして歌詞をつけるわけにはいかないです。内容を味わうのだ、形式を味わうのだと決め付けてはいけません。

 なお、注意することは昔節とか大昔節とかいうが、成立の古さをいうているのではありません。本書後書きの琉球古典音楽の歴史を読んで考えていただきたいが、地方文化の中央収れん(それを尚巴志の三山統一から尚真王による中央集権の時代に読む)があって節歌(端節)が磨かれ、それらの先行する文化的要素があって湛水親方の時代あたりに形式的楽曲の作曲があったと私は考えています。茶屋節がそれをよく示しています。


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